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連載小説 『雨の音』     NO.2

 第二話 二つの死体

寝室から飛び出して、廊下を玄関まで戻り、そこにある白いガラスの格子戸を開けた。
明るい陽光が、空間に溢れている。南側に面した20帖はあるリビングに入ると、一課の刑事たちと、二人の鑑識が話をしていた。
血相を変えて入ってきた私を見つめて、皆が暗い顔を向ける。
「真希ちゃん、どうした?」
 鑑識係の中で、一番年配の山倉さんが微笑みながら、私に声を掛けた。
「女が風呂場で死んでいるって……」
「ああ、浴槽の中で手首を切っている。えらいことになったよなあ。女だなんてなあ、加藤さんらしくないさ」
 と、山倉さんは、立ち尽くす私の傍へやってきて、肩をポンポンと叩いた。彼の後ろで、三人の刑事が困惑した顔をして、私を見ていた。その中に心配そうな大川刑事の顔もある。彼も取り乱した私を黙って見ていた。
今、私はどんな顔をしているのだろう。平常心でない事はわかっている。顔面の皮膚がピリピリとしびれるような、胸が潰れるような、とにかくこの驚きは冷静さを装う事など出来ないほどに、私を打ちのめしている。加藤警部の死で、ここにいる警察関係の人間が動揺している理由は、私に当てはまらない。いや、今の私には、起こったことを冷静に判断する事などできるはずもない。
「バスは?」
「そのドアのつきあたりだ」
 ふうっとため息を漏らして、山倉さんが指をさした。私はそのドアに駆け寄った。
「待てよ、高木!」
ドアを開けると、大川が私を引き止めるように後に続いてきた。
「何も言わないでよ。聞きたくない」
「冷静になれよ。皆、動揺しているのは同じだ」
 と、私の肩を後ろから掴むと、周りを気にして、小さく呟いた。
「分かっている。大丈夫、私もデカの端くれよ」
 彼の手を払いのけるようにして、風呂場のすりガラスの入ったドアを開けた。
広い洗面室とトイレ。その奥の浴槽を仕切るガラス戸。ムンとした湿気が、奇麗に片付いたサニタリーに生臭い臭気を感じさせる。私は入ってきた勢いのまま、ドアを開け放した。
「うっ……」
 思わず、手で口と鼻を覆った。瞬間、髪の毛が逆立つような恐怖に囚われる。
 真っ赤な水を湛えた浴槽に、蝋人形のように真っ白な全裸の死体。ゆったりと足が投げ出せるデザインの浅めの浴槽に、まるで寝かされているように、8分目程の水の中に死体は浮かび、乳房を赤い水から突き出している。
 しかし、その女の顔は、大きく口を開け、恐怖に引きつった目をしっかりと開いて、天井を凝視していた。四方が真っ白な浴室のタイルで、血の重みが混ざった赤い水が恐ろしく鮮やかに見える。
「手首は水の中だ。壁に血が飛んでいないところを見ると、水の中で手首を切ったようだな」
 私は、乾いた口に溜まる生臭いような唾を飲み込んだが、嫌な味が口中に広がった。篭った血のにおいと湿気は、眩暈を覚えるくらいに、私の本能をいたぶる。
「自殺じゃないわね」
 私は、女の脅えた顔を見て、大川刑事に言った。
「だろうな。手首を引き上げてみたが、躊躇い傷もなかった。加藤さんの殺され方と言い、心中というには不可解な事が多すぎる」
 私の横に立って、大川刑事は、低い声で答えた。私達が到着するまでに、一課の連中はつぶさに事件を把握したようだ。
 不可解……と言った大川刑事の悔しそうな横顔を見た。彼は、日ごろから加藤警部を先輩と慕い、人間的にも尊敬していたようだった。私にはまだ、加藤警部の死を頭でわかっていても、感情を引き出すほど心に刻み付けられてはいない。ただ、目の前にある真実に、悲しみを封じ込められている気がする。彼とこの女が、ただならぬ関係だったという事。私の心に、知らない女と全裸で死んでいたことに対する怒りが渦巻いている。それは、「何故」と繰り返して、私を苦しめた。
「ダイちゃん、お願いがあるの」
「ん? 加藤さんのことか」
「うん。私と彼とのことは、きっと貴方以外知らないわ。出来るなら、秘密のままにしておいて。勿論、私はこのヤマとは全くかかわりがない。彼とは、2週間前に別れているし」
「え? 別れたって……」
 私は唇を噛んだ。付き合っていたことは大川には漏らしていたが、別れたことは伝えなかった。
「彼の方から一方的に、俺に関わるなって言ってきたの。二度と恋人面をするなって。要するに、彼にはこの女がいたと言う訳なんだね。突然だったから、落ち込んだけど、今理由が分かった」
「そうか……。まあ、お前さんが関わっていないのなら、個人的なことに興味はない」
「有難う」
大川は、大きなため息を吐いたあと、
「男と女なんてこんなものさ。どっちにしても怨恨だろう。加藤さんがまさかこんな死に方をするなんてな」
 と、はき捨てるように言った。
 私は黙って、浴槽に沈む、生きていたらどこにいても目立つだろう美しい女の死体を見つめた。

              第三話へ
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