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こんにちわ! 関 なみです!


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『夢のあとさき』  (4)

     『夢のあとさき』  (4)

 見上げると、澄み切った青い空に、枝を伸ばす桜の薄い桃色があでやかで美しい。
 ウエデングドレスの裾を気にしながら、花嫁の席にひとり座る真帆には、桜の美しさも慰めにはならない。

 真帆の友人がピアノとバイオリンの演奏を始め、流れるクラシックの旋律に、教会から出てきた列席者達も穏やかに会話を交わして始めた。
 
 教会のガーデンには自由に酒と料理が選べるように広いテーブルに並べられている。その前に招待客用にテーブルが置かれ、皆、思い思いに料理に手を伸ばし、グラスを傾けている。

 披露宴などしないと言い張った祐介を説得して、一風変わったパーティを考えたのも、全ては関わりのある人達から、祝福して貰いたかったからだ。

 心から喜んでくれた母と祐介の家族、遠方から遣ってきてくれた親族や、気の置けない友人達に囲まれて、祐介とともに笑顔に包まれる。それが一番の真帆の望みだった。

 しかし、式が終わっても姿を見せなかった祐介に、真帆のささやかな望みも達せられないまま、重苦しい雰囲気でパーティは始まってしまった。

 真帆は、一人ポツリと白い椅子に座って、笑顔のない招待客を眺めていた。

 義理の両親は、テーブルを巡り、息子の非礼を謝って回っている。何度も深々と頭を下げている両親の気持ちを思うと、真帆は胸が痛んだ。
 母の孝子は、叔父や叔母や親族の中に身を隠すように、うな垂れたままだ。一番、喜ばせて遣りたかった母の肩を落とした姿に、胸が締め付けられる。

 憧れの教会でのウエデイングも、二人で話し合って決めた桜の咲く下でのパーティも、今では何の意味もない。

「真帆、大丈夫?」
「有子、麻ちゃん……」
 親友の二人が、グラスを手に声を掛けに来た。
 真帆は、心配そうな二人に、笑顔を向けた。
「うん。今日はごめんなさい。こんなことになっちゃって。車だから、渋滞に巻き込まれているのかも知れないし、こっちに向かっているとは思うんだけど……」
「連絡は取れないの?」
 二人は、真帆を気遣いながら、手に持ったグラスを差し出した。
「ありがとう。ダメなの。あの人のことだからケータイ、充電切れでもしてるんだと思うけど、繋がらないの。ほんとに困った人だわ」
「そうなの。心配ね、事故とかじゃあなければいいけど」
 髪をアップした楚々とした顔を曇らせて、友人の有子は溜息を吐いた。
「大丈夫よ。彼の部屋からここまで1時間は掛かるから、そろそろ来ると思うわ。とにかく、二人とも私のことは心配しないで楽しんで。お祝いは祐介が着いてから聞くから」
 そう言って、真帆は乾杯に空けるはずだったシャンパンのグラスを受け取り、口へ運んだ。
「そうだね。彼が現れたら、いっぱいおめでとうは言ってあげる。気を落とさないで待っていなさいね」

 真帆は、手を上げて戻ってゆく二人を笑顔で見送り、含んだシャンパンをこくりと喉に流し込んだ。
 まるで涙のように苦い味が口の中に残った。2口目を口にするのを躊躇い、テーブルにグラスを置く。
 真帆は、ぼんやりと自分を置き去りにして過ぎて行くパーティを眺めていた。
 あの人達の輪の中心で、高揚した顔で笑っている筈の自分。誰よりも幸せであったろうに。

 でも、今は青い空も、咲き誇る桜も、暖かな春の陽射しも、祝福のために集ってくれた人達も、すでに壊してしまった自分にはあってはならない光景の一つ一つなのだと思うと、真帆はその場に崩れ落ちてしまいそうだった。

 泣き叫んで許しを乞う事が、今の自分には一番必要な事なのかもしれない……。

 体中が震え、心は痛に悲鳴をあげる。溢れ来る感情を抑えられなくなり、真帆は自分の体をきつく抱きしめた。

 もう、戻れない……真帆は震える手で顔を覆った。


「真帆さん!」

 はっとして、覆った手を下ろす。目の前に恭介が膝をつき、真帆の顔を覗きこんでいた。

「あ、ごめんなさい。大丈夫です」

 慌てて平静な顔を取り戻そうとしたが、強張った顔は笑顔にはならなかった。
 恭介は、空いたままの花婿の席へ座って、体を真帆へ向けた。

「大丈夫じゃないでしょ! 一人でここに座っているなんて、辛くないわけないでしょう!」
 彼は、真帆の様子を慮(おもんばか)ってか、少し声を荒げた。

「やはり中止にした方が良いのでは? 兄に連絡は取れないのでしょう? このまま来なかったら、辛いのは貴女ですよ」
 そして、今度は真帆を諭すように、穏やかに話した。

 恭介の切れ長の涼しい目が、まっすぐに真帆を見つめる。
 真帆は、全てを見透かされているようで、慌てて視線を逸らせた。

「いいんです! 本当に大丈夫ですから。心配して頂いてありがとう。でも、私一人でも、この式だけは終わらせたいの。どうしても最後まで花嫁でいたいの」
 
「真帆さん」

「だってね、恭介さん。この結婚は私にとって、はじめての……そして、最後の結婚式になるの。だから、中止だなんて言わないで……」

 恭介に向けられた真帆の瞳から、溢れてくる涙が頬を伝った。

 懇願するように涙を零す彼女に、恭介は言葉を飲み込んだ。悲しすぎる花嫁は、兄に憎く思うほど哀れで儚くて、そして美しかった。

「真帆さん……」

 涙を止めようと震える唇を噛む真帆に、そっとハンカチを手渡して、恭介は決心したように肩で息を吐いた。
 そして、彼女に小さな声で呟くように言った。

「兄のこと……。ここに来ないことを解かっているんですね?」

 真帆は渡させたハンカチで、涙を拭う手を止めた。

 恭介の見透かすようなまっすぐな目を、逸らすことは出来ない。

 真帆は、静かに頷いた。

「ええ。何もかも解かっています……」


 丁度、クラシックの演奏が終わり、友人二人が拍手を受けていた。

 真帆と恭介は、沈黙したままで、その光景を見つめた。


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